電話を持つ女性

インフルエンザを発症すると、激しい咳や鼻水、高熱といった症状が現れます。
そしてインフルエンザを発症した場合、様々な合併症を引き起こす恐れがあります。
その中でも特に危険な病気とされているのが、「インフルエンザ脳症」になります。
この病気になると命の危険性が非常に高まるだけでなく、命は助かったとしても、麻痺等が残りやすくなります。

そこで重要なのが、まずインフルエンザとはどのような病気なのかを知ることです。
そして病気を知ったうえで、インフルエンザ脳症の症状を把握する必要があります。
どのような症状が出るのか知ることで、もし発症した場合に早期診断につなぐことができるからです。
また、なぜ発症するのかを知ることにより、予防の方法も検討することが可能となります。

インフルエンザはどんなウイルスによるものか

風邪は様々なウイルスによって発症します。
一方、インフルエンザは「インフルエンザウイルス」によって発症する病気となります。
インフルエンザウイルスには、他のウイルスとは異なる特徴がいくつかあります。

まずは増殖力の違いです。
一般に、ウイルスは鼻やのどなどの粘膜に吸着し、細胞内に侵入することで増殖していきます。
そして一定程度ウイルスの数が増えると身体が反応し、ウイルスを倒そうと免疫が働くため、熱・咳・鼻水が出るようになります。
しかし、インフルエンザウイルスの場合は体内に侵入した後、急速に増殖していきます。
すると免疫もすぐに反応し、ウイルスの増殖を抑えようとします。
普通の風邪に比べて症状が早く出るのは、それだけウイルスの増殖が速いためです。

また、インフルエンザの症状としては38度以上の高熱、激しい咳、関節痛などが挙げられます。
インフルエンザウイルスは他のウイルスに比べて強いため、普通の風邪の場合に比べてより体温を高くしなければ対処することができません。
さらに、免疫がインフルエンザウイルスを攻撃する過程で、関節や体の他の部分も攻撃してしまいます。
すると関節痛なども現れるようになります。

ただし、インフルエンザウイルスは他のウイルスと異なり、季節性があります。
インフルエンザウイルスの場合、11月から流行が始まり、1月から3月頃にピークを迎えます。
また、インフルエンザウイルスは細胞と結合したり、離れる為にスパイクタンパクという糖タンパクが飛び出しています。
そしてこの結合の方法の違いにより、さらにA型、B型、C型の3種類に分かれます。

A型の場合、スパイクタンパクには「ヘマグルチニン(HA)」と「ノイラミニダーゼ(NA)」の2種類があります。
そして細かい構造の違いによりHAは16種類、NAは9種類に分類されます。
そしてHAとNAの組み合わせにより、A型は144種類の亜型に分かれます。
そして亜型によって、それぞれ微妙に形が異なるために、免疫もそれぞれに対応していく必要があります。

B型の場合も、スパイクタンパクにはHAとNAの2種類があります。
しかしそれぞれ1種類ずつしかないため、B型のインフルエンザウイルスは1種類のみとなります。
そしてC型の場合、スパイクタンパクは「ヘマグルチニンエステラーゼ(HE)」のみとなっています。
そのため、このタイプも1種類のみとなります。

このように一言でインフルエンザといっても、ウイルスの構造により症状の出方などが異なります。
例えば高熱や激しい咳といった症状が現れるのは、A型とB型のみとなります。
C型の場合は普通の風邪と同程度の症状しか現れません。また、変異しやすいのはA型のみとなります。
例えば鳥インフルエンザはA型によって起こります。
A型の構造が変わり、これまでは人には感染しなかったのに、感染するようになると大流行(パンデミック)が起こります。

インフルエンザ脳症はいったいどんな病気?

インフルエンザは様々な合併症を引き起こす恐れがあります。
その中でも特に危険性が高いのが、「インフルエンザ脳症」になります。

「インフルエンザ脳症」は主に5歳以下の乳幼児が発症する合併症となります。
インフルエンザを発症すると、免疫機能が働きだします。
このとき、サイトカインも多く分泌されるようになります。
サイトカインには血中の水分を放出する働きがあるのですが、過剰にサイトカインが分泌されてしまうと、それだけ多くの水分が血中から放出されてしまいます。

そして脳の血中から水分が放出されると、脳がむくみだします。
大きくなった脳は次第に行き場を失い、延髄を圧迫するようになります。
延髄は呼吸や消化機能の中枢となる部分であるため、この部分が圧迫されると呼吸停止に陥ってしまいます。
また、脳がむくむ過程で様々な部分が圧迫されるようになり、症状が出るようになります。

インフルエンザ脳症の主な症状には、意識障害、けいれん、幻覚が見られます。
これらの症状が、熱が出てから数時間後から1日の間に見られた場合は、早急に救急車を呼ぶ必要があります。

まず意識障害ですが、具体的にはウトウトしていて呼びかけても反応がない、刺激を与えても反応がない場合などが挙げられます。
これらの症状が見られる場合、脳幹や大脳皮質にダメージがある場合が考えられます。
すぐに対処しないと死亡する可能性も高いため、早急に救急車を呼ぶようにしましょう。

次にけいれんですが、インフルエンザでは熱性けいれんによる場合と、脳症による場合が考えられます。
というのも、乳幼児はまだ脳の発達が未熟なため、38度以上の高熱を出すとけいれんを引き起こす恐れがあるためです。
熱性けいれんの場合、熱が出始めてから24時間以内に、両手足が硬直し、がくがくと震え、2~3分ほど意識が失われます。
この時、場合によっては白目を向いたり、チアノーゼが生じる場合もあります。
ただし、5分ほどすると症状が治まっていきます。

一方、インフルエンザ脳症によるけいれんの場合、脳が圧迫されることによって起こるため、けいれんが5分以上続きます。
また、5分以上続かなかった場合でも、短い期間内に何度もけいれんが起きる場合もあります。
さらに、脳が圧迫された部分によっては、左右のどちらかだけにけいれんが起こることもあります。
このようなけいれんが見られた場合は、インフルエンザ脳症を疑う必要があります。

なお、高熱が出るとけいれん以外にも幻覚が見えたり、意味のないことを言い出す、突然泣き出したり怒り出したりするといった症状が現れることもあります。
ただし、これらの症状も長時間続く場合は、脳症によって生じている可能性があります。

このように、インフルエンザ脳症を発症すると様々な症状が現れます。
これらの症状は長期間続くと死亡のリスクが高まるため、気道確保などを行って症状を緩和させるとともに、免疫異常を改善させていく必要があります。

インフルエンザ脳症での死亡率とは

インフルエンザ脳症は、主に5歳以下の乳幼児が発症する病となっています。
乳幼児はまだ脳が未熟であるためダメージを受けやすく、発症すると死亡する危険性も高くなります。

さて、年間でインフルエンザ脳症を発症するのは約100人から200人ほどとなっています。
そして発症した場合、死亡率は現在約10%ほどと考えられています。
以前、インフルエンザ脳症を発症した場合、その死亡率は30%とされていました。
しかしその後厚生労働省によってガイドラインが改定されました。
ガイドラインには診断基準や診断方法などが掲載されており、より早期発見につながりやすくなったため、死亡率の低下にもつながっていると考えられます。

医学が発達し、死亡率は低下しましたが、脳にある程度ダメージが残ってしまう可能性は未だにあります。
インフルエンザ脳症を発症した後、障害が残ってしまう可能性は、約25%ほどあると考えられています。

具体的に残る可能性が高い障害としては、「てんかん」「精神遅滞」「高次脳機能障害」が挙げられます。
また、「運動障害」「聴力障害」「視力障害」「嚥下障害」「四肢麻痺」が見られることもあります。
特に「てんかん」はインフルエンザ脳症後残る可能性が高い病気となっています。
そして「てんかん」はある程度コントロールすることが可能なタイプもありますが、インフルエンザ脳症によって起こった場合は、コントロールが難しいものとなっています。

そのため、もし障害が残ってしまった場合はリハビリテーションが重要となります。
医療が中心となる急性期から家族の病気の受け入れ、環境の調整を含めた総合的なリハビリテーションを、様々な職種が連携して行っていきます。
特にインフルエンザ脳症の場合、5歳以下の乳幼児が発症することが多いことから、退院後初めて集団に加わるという場合も少なくありません。
そのため、退院後に通う集団の場所なども検討していく必要があります。

また、ガイドラインの改定や医療の発達により、インフルエンザ脳症による死亡率は、約30%から約10%に低下しました。
しかしそれでも、年間約100人から200人発症した人のうち、10人から20人は死亡していることになります。
そして数字の上では減少していても、当事者にとってはやはり大切な人を亡くすのはとてもつらいことになります。
そのため、ガイドラインでは病院に運ばれてから死亡に向き合うまでの「グリーフケア」についても記載されています。
「グリーフケア」では、家族への説明を行うことを重要視しています。

まず病院に搬送された段階で、少しでも回復する可能性がある場合はできるだけ回復を目指すようにします。
この過程で子どもがたくさんのチューブにつながれるなど、痛ましい光景になることもあるため、事前に家族等に説明します。
そして回復の見込みがない場合は、他の病院を受診するか、看取りを行うかの選択を家族にさせます。
そして看取りを行う際は、少しでも家族が子どもを抱っこできるようにし、できるだけ胸の中で最期を迎えられるように環境を整えます。

死亡率は低下していますが、それでもなお死亡してしまう子どもはいます。
回復の余地がなかった場合、少しでも対処できるよう、事前にガイドラインにも記載されているのです。

インフルエンザ脳症、予防はできる?

インフルエンザ脳症は一度発症すると、死亡する可能性が10%ほどあります。
そしてもし回復したとしても、障害が残る可能性は25%ほどあります。
そのため、最も重要となるのは、インフルエンザ脳症を予防することになります。

まず予防するうえで重要となるのが、インフルエンザにかからないようにすることです。
そもそもインフルエンザにかからなければ、脳症になる危険性もないためです。

インフルエンザは空気中に漂うウイルスや、感染者からの咳やくしゃみに含まれるウイルスが鼻やのどの粘膜に付着することによって感染します。
そのため、冬場はマスクをつけることにより、少しでも吸い込むウイルスの量を少なくします。
また、のどの粘膜についたウイルスを追い出すために、うがいもしっかりと行います。
手にウイルスが付着していることもあるため、手洗いもしっかりと行います。

また、インフルエンザの予防に効果的なのが、予防接種になります。
ヒトは一度細菌やウイルスに感染すると、感染したものに対する抗体ができます。
インフルエンザの予防接種では、インフルエンザウイルスが粘膜に付着、拡散するために使われるスパイクタンパクを濃縮したものを体内に入れます。
すると体はそのスパイクタンパクに関する抗体を作り出すため、もし本当のインフルエンザウイルスが侵入してきた際に、対処しやすくなります。
また、もしインフルエンザウイルスに感染したとしても、早期に抗体が対応できるため、症状もあまり出なくなります。

また、インフルエンザにもしかかってしまったとしても、インフルエンザ脳症が発症する危険性を軽減させる方法があります。
それが「アスピリン」系の解熱剤を避けることになります。

解熱剤にはいくつか種類がありますが、その中でもアスピリン系の解熱剤は、炎症を抑えることで痛みや熱を抑える効果があります。
しかし、アスピリン系の解熱剤には、急性脳症を引き起こす危険性を高める作用もあります。
特に子どもの場合は影響を受けやすいため、絶対に使ってはいけないものとなっています。

なお、インフルエンザの場合、原則として解熱剤は使わないほうがいいとされています。
というのも、熱が出ているのは身体がウイルスと戦っているという証拠だからです。
もしむやみに解熱剤で熱を下げてしまうと、ウイルスの増殖を十分に抑えることができず、治りが遅くなってしまう可能性があります。
そのため、インフルエンザの場合は解熱剤はできるだけ使わないようにします。

そして、インフルエンザに子どもがかかってしまった場合は、できるだけそばを離れないようにします。
アスピリン系の解熱剤を避けたとしても、脳症を発症する危険性はゼロではありません。
もし異常が見られた場合に少しでも早く対処することが、命をつなぐために重要となります。
できるだけそばを離れず、もし異常が見られたらすぐに救急車を呼ぶようにしましょう。